2010年8月アーカイブ

文責:上田昌文

■研究会の形態
・月1回程度の定例研究会
・メーリングリストでの議論(→本日、新設定)
・(新しい)ホームページの研究会ページでの情報配信(記事、報告、論文などのアップ)
・(適時)「市民科学講座」での発表、『市民研通信』での記事配信

■連携している団体など
・babycom: ホームページでの連載+『mook』4冊+『子どもと電磁波』
・電磁波からの健康を守る全国連絡会議(代表世話人:網代さん+大久保さん+懸樋さん)
・(株)S社などから:請負調査などで資金提供

■現在進行中の仕事
・9月2日午前:国立市の市議さんたちから基地局問題で相談(@市民研)
・9月5日(日)13時~、7日10時半~ 千駄木NTTビル周辺の電磁波計測
・9月9日13時~ 九段下NTTビル周辺の電磁波計測
 →原告団に提出した資料参照
・9月12日(日)府中市で電磁波問題講演(府中・生活者ネットの市議の方々ら)
 →チラシ参照
・電磁界情報センターでの5月20日+6月3日のフォーラムの記録のアップ
・『CS支援』に2010年2月から隔月連載の「基礎から理解する電磁波の健康影響」
 →コピー参照

■今後の取り組みのアイデア
・最新の健康影響情報をどう収集し、どう整理し、どう伝えていくか
→例:海外のWiFiなど無線器機導入への反対の様々な動向
・政府や業界の動向をどう把握し、問題提起していくべきか
・具体的な計測などにもとづいての調査をどうすすめるか
 →例:業務用IHの曝露推定
・自分の地域がかかえている具体的な問題をどうするか

■当面取り組むこと
<上田>
・未計測の新しい技術製品を計測してみること
 電気自動車、エコキュート、風車、LED電球、燃料電池など
 →関連する技術や製品を扱っている人に相談して測定する機会を作る
 →電磁波問題市民研究会の鮎川さんに相談する
・IHからの電磁場を"身体に感じる"人は少なくないと思われるので、
これを使って、ブラインドの試験ができるように設定し、"体感"の有無を検証する
<伊藤>
・パソコンのCPUの使用割合に応じて電磁波の発生量が変わると思われるが、
そのあたりの測定方法の企画書を作る
<粟野>
日本と欧米の室内配線に関する規格の違いを点検し、
電磁波問題にどう関係するかの意見をまとめておく

■次回は、9月18日(土)午前10時半~12時半 市民科学研究室にて

             (『消費者リポート』第1466号2010年7月21日に寄稿、執筆は上田昌文)
             interphone-ueda .pdf

 携帯電話電磁波と脳腫瘍との関連を探った世界最大規模の疫学調査「インターフォン研究」の結果が5月18日に公表されました。世界保健機関(WHO)に属する国際がん研究機関(IARC)の指揮のもと、日本を含む13カ国が参加し、2000年から6年間で2500万ドルを費した研究です。発表が4年もずれ込んでいる間に、関わった研究者の間でも意見が対立しているらしい、との噂が漏れ聞こえてきましたが、論文の「結論」はそれを頷かせるものでした。「影響があると断定はできないが、ないと言い切ることにも無理がある」とでも言えそうな、どっちつかずの妙な結論になっています。

神経膠腫と髄膜腫の発症と携帯電話使用の関連を調査

 脳腫瘍にはいろいろな種類があり、発症数は全体で1年間で人口10万人あたり12~16人ほどですが、今回の論文で取り上げられたのは、脳腫瘍の中でもそれぞれ25%と27%ほどを占める神経膠腫と髄膜腫です。00年~04年の間に発症した2708人の神経膠腫の患者と2409人の髄膜腫の患者(「症例」)を調べています(インターフォン研究では、それ以外に聴神経腫も調べているのですが、次回の発表にまわされました)。この5117人の患者と比較するために、脳腫瘍は患っていないが他の条件(年齢、性別、生活状態など)ではよく似ている人たちをほぼ同数選び出して「対照」としています。

 この研究では症例対照研究という疫学の手法が使われました。症例(患者)群と対照(非患者)群のそれぞれの集団で、全員にインタビューやアンケートをして、携帯電話を使っていたか(電磁波の曝露群)、使っていなかったか(非曝露群)のどちらであるかを決めることができます。その結果、仮に、対照集団に比べて症例集団の方が、携帯電話を使っていた人の割合が大きいことがはっきりすれば、「どうも携帯電話を使うことでこの病気が引き起こされるらしいぞ」と推測することができます。

週1回以上の使用で全員が「通常の使用者」?

 ただし、そうした曝露/非曝露群の条件設定に、疑問を呈する意見も少なくはありません。
インターフォン研究では、曝露群(「携帯電話の通常の使用者」)を「過去6ヶ月以上にわたって平均して週1回以上携帯電話を使用している人」と定め、その使用頻度に達していない人を非曝露群としましたが、調査の要となるこの切り分けは、はたして妥当だったのでしょうか。例えば、「1週間で数回・トータルで5分程度しか話さない人」と、「1日仕事で数回・トータルで1時間以上話す人」の違いは検出できるのかという疑問が残ります。

 また、この研究では家の中で使うコードレス電話のことは調べていませんが、「携帯電話はほとんど使わなくて、家の中の子機で長話をする人」が非曝露群に入っていて大丈夫なのかといった疑問も、いろいろと出てきます。

 また、携帯電話が爆発的に普及し始めたのは、欧州では90年代初頭、日本では95年頃からですから、2000年~2004年の時点では、「10年以上の使用者」の割合は相当に小さくならざるを得ません(現にこの研究では1割程度になっている)。それに、そもそも10年間の曝露によって脳腫瘍の発症を確認できるのは、全体のまだ一部にすぎないでしょう。タバコによる肺がんの場合からもわかるように、通常、がんの発症にはもっと永い時間がかかります。

一見、玉虫色に見える結論

 こうした難点をかかえながらも、どうにかまとめ上げられた結論は、次のようなものでした。

(1)上記の「通常の使用」と「それ未満の使用」で比べた場合、神経膠腫でも髄膜腫でもリスクの低下(携帯電話を使うことで脳腫瘍防止効果が出る)が見られた。

(2)累積時間の大きさで全体を10のグループに分けて調べると、最大曝露グループ(累積通話時間1640時間以上)でのみ、神経膠腫のリスクの上昇(1.40倍、すなわち40%上昇)がみられた。ただし、このグループにはありそうもない長時間通話を報告した例も複数含まれていた。

(3)(電磁波を浴びやすい)側頭部にできる神経膠腫では、(2)で言う最大曝露グループではリスクが1.87倍に、携帯電話をあてる側にできる神経膠腫瘍では、やはり同じグループでは1.96倍になっていた。

(4)生物学的には考えにくい(1)のような結果が見られたのは、患者群と対照群とで、インタビュー調査への参加率の違い(非参加者は携帯電話の使用期間を参加者よりも短めに報告する傾向があるという)や思い出し方の違い(患者の方が対照よりも使用時間を多めに報告する傾向があるという)などによる、統計的なバイアス(偏り)や誤差があるためだろうから、同じ理由で(2)や(3)の結果も因果関係があるとみせるほど強力とは言えない。

見落としてはならない重要な指摘

 日本の報道(主として共同通信の配信を使った短い記事)は(4)の"因果関係があるとはみせない"の部分だけを拾ったものが多く、それを受けて(社)電波産業会も早々と"安全宣言"を出したりしていますが、これらは浅薄な紹介であり対応であると言わざるを得ません。

 論文の「付録2」では、基準を「1~1.9年使用」(リスク比1.0倍)にして「2~4年」「5~9年」「10年以上」のそれぞれの使用でのリスクを調べ直していますが、神経膠腫は1.68倍、1.54倍、2.18倍とすべて上昇しています。また、論文中には(4)の"参加率の差"が何をもたらすかを分析している部分があり、「リスクを5~15%程度低く見せてしまっているのではないか」との推測も記されているのです。この論文は「携帯電磁波は安全」というお墨付きを与える中身には到底なっていないのです。

 おおむね「影響なし」ととる海外政府系諸機関でも、その多くが曝露を減らすための手段をとることを勧めたり、「子どもへの影響は無視できないので何らかの対策が必要」と表明したりしています。インターフォン研究の責任者のE.カーディス博士も指摘するように、00年~04年当時、最大のヘビーユーザー(累積1640時間以上)は全体の10%程度の少数派でしたが、今日では子どもを含めこの程度の通話はごく普通で、むしろ多数派になろうとしています。この現実をふまえて、総務省、厚生労働省はもちろんのこと、様々な団体で、そして個人レベルでも、警告や対策を早急に打ち出していくべきでしょう。■

                (『高木学校通信』第69号2010年7月29日に寄稿、執筆は上田昌文)

 私たち市民科学研究室の環境電磁界研究会(以前の名称は「電磁波プロジェクト」)は、1999年に活動をスタートし、東京タワー周辺地域の電磁界強度分布の調査を皮切りに、表にまとめたような活動を展開してきた。日常生活で健康への悪影響が問題視される電磁波は、超低周波磁界(50Hzならびに60Hzの周波数を主とする、電気の使用に伴って発生する電場と磁場のうちの、特に磁場)とマイクロ波(主に放送電波や携帯電話や電子レンジで用いる周波数帯の電波)の2つだが、現在日本や多くの先進国で採用されている規制値は国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインにならったものであり、前者については感電・刺激作用(ビリビリ感)を防止し(電界で4.2~5kV/m以下、磁界で833mG~1000mG以下)、後者については加熱作用を一定限度内に収める(放送や携帯電話の電波の周波数帯でおよそ600~1000μW/cm2以下)ことを目的に作られている。これらの値を超えるような強い電磁波に、日常生活で遭遇することはまずない。もともと電離放射線や紫外線に比べて波自体のエネルギーレベルの極めて低い電磁波が、しかもこの基準値以下の強さにおいて、人の健康にダメージを与えるなどとは考え難いというのが、従来のとらえ方だった。

 しかし実際に、高圧送電線からの超低周波磁場の影響(4mG以上の恒常的曝露)で小児白血病の発症率が2倍程度上がることが疫学調査で確定的となったことや(この関連はWHOによる『環境健康クライテリア238 超低周波磁界』2007では最も確からしい健康影響とみなされている)、携帯電話のヘビーユーザー(累積通話時間1640時間が一つの目安)の間では脳腫瘍の一種である神経膠腫の発症率が1.4~2倍ほどに上昇していること(最近公表された13カ国共同の最大規模の疫学調査「インターフォン研究」で示唆された結論の一つ)が示すように、「メカニズムはわからないけれど、微弱ではあっても恒常的あるいは頻繁な曝露によって、重篤な疾病が誘発される可能性がある」ことが次第に明確になってきている。電磁波のように、至る所で複数の周波数のものを、程度の差はあれ、誰もがそれなりに曝露する因子に対して、100%の確からしさで特定の疾病との因果関係を示すことは相当難しい。基準値を変更するにはそれなりにしっかりした科学的根拠がなければならいないのは当然だが、だからといって「クロだと確実に断定できないものはすべてシロとみなす」という論理がまかり通る時代ではもうないはずだ。残念ながら、生体影響を検討する総務省関連の委員会を構成する専門家たちは、そのほとんどがそもそも"電波や電気でメシを食っている"人たちであり、ごく少数含まれている公衆衛生の専門家も、かたくなに先の旧来の論理にこだわる人が選ばれている(彼らにとってリスクコミュニケーションとは「電磁波問題でいらざる不安を覚える人たちの誤解をとくべく教え諭す」ことを主眼とするらしい)。

 私たちが調査を開始してもっとも驚いたことは、例えば鉄道労働者など特殊な職業人集団を対象に計測したごく少数の例を除いて、一般人を対象とした電磁波曝露の実態調査がほぼまったくなされてこなかったという事実である。東京タワーのような巨大電波塔も過去に旧郵政省関連の研究機関が行った1例(むろん健康影響調査ではなく、電波の強度分布調査)があるだけであり、図書館盗難防止ゲートでの実測例もなく(私たちが測って中央部では基準値の10倍を超えていることを見つけた)、普及がすすんでいるオール電化住宅(当然IHクッキングヒーターが設置されている)での24時間のトータル曝露量も誰も手をつけていなかった(私たちは20名の家庭の主婦の方々にお願いしてデータを収集した)。携帯電話についても同様だ。「熱効果の比吸収率(SAR値)の規制を守って製造しているのだから、電波そのものの強さに関しては何も消費者に教えなくてよい」というのがメーカーの立場なのだろうが、たとえば「電子レンジの筐体から漏れ出てくるマイクロ波と比べて、携帯電話のマイクロ波は強いのか弱いのか」といったことさえ、私たちは知り得ないままなのである(測ってみればわかるが、携帯電磁波の方が電子レンジから漏洩する電磁波より、場合によっては強くなる)。携帯基地局設置をめぐって、これまで全国各地で200件近い紛争が起きてきたのも、もとをたどれば、「国の基準を守っているのだから消費者には何も知らせなくてよい(文句を言われる筋合いのものではない)」とするメーカーや事業者の姿勢に行き着く。10年後15年後を考えると、今、携帯電話で当たり前のように長電話をしている子どもたちの中から、働き盛りに脳腫瘍で苦しむようになる者が、相当多数出てくる可能性がある。それを知りながら(「科学的に証明されたわけではない」と言い逃れしながら)無策を決め込むとすれば、それは社会的責任の罪深い放棄と言うべきだろう。驚かれるかもしれないが、先進国において、子どもの携帯電話使用に対して何らかの規制(使用や広告の制限や注意喚起など)を導入するどころか、"携帯天国"の中に子どもたちを放置させているのは、なんと日本だけなのである。皆さんはこの事実をどう考えられるだろうか。■

●市民科学研究室「環境電磁界研究会」の活動概要(2001年~2010年)
 
~これらの記事・論文・報告・データはほぼすべて市民研のホームページで公開しています

●計測活動、電磁波環境調査
・家電製品からの漏洩電磁波の計測
・東京タワー周辺地域の電磁波強度分布の調査(→論文)
・図書館などの盗難防止装置の電磁波計測(→報告書)
・国立市における携帯電話基地局電磁波計測(→報告書)
・携帯電話に関する大規模アンケート調査(健康影響の項目を含む)(→ウェッブで公開)
・神奈川ネットの方々との共同で平塚市、大和市、海老名市、鎌倉市などで電磁波計測(携帯基地局、高圧線、家電など)

●電磁波リスクに関する調査研究
・港区における小児白血病死亡者数からみた東京タワーの電磁波リスク(→報告書)
・各国の電磁波健康影響に関する論文や報告書のレビュー
・欧米各国の携帯電話電磁波リスクに関する政策動向の調査
・疫学入門、「リスクコミュニケーションのための科学的証拠のとらえ方」などの講座
・WHOワークショップ「子どもの電磁波感受性」(2004、イスタンブール)への参加
・WHOワークショップ「携帯基地局と無線:被曝と健康」(2005、ジュネーブ)への参加
・ドイツのNPO「エコログ研究所」「ノヴァ研究所」「エコテスト」を取材訪問
・英国のNPO「パワーウォッチ」を取材訪問

●省庁などを相手にした申し入れ、交渉などの活動
・低周波磁場のリスク対策や盗難防止装置の件で総務省への申し入れ
・携帯電話基地局に関する情報公開請求
・鉄道会社各社に対する携帯電話の電車内使用に関する公開質問状
・「電磁波から健康を守る連絡会議」の世話人の一人として議員、省庁への申し入れ行動

●学習・普及・支援活動
・妊娠出産支援のウェッブサイト「babycom」との連携による電磁波問題入門の連載web
・東京理科大学「サイエンス夢工房」などでの電磁波計測ブースの出店
・大学の授業内でのワークショップ「携帯電話政策論争!」
(東京工業大学、東京電機大学、慶応大学など)
・研究発表&講演
~市民運動グループの学習会、大学、技術者のフォーラム、医師会、大学など多数
・翻訳、執筆、書籍の発行
 『化学物質過敏症CS支援』に「基礎から理解する電磁波の健康影響」を連載中(2010年2月~)
 『消費者リポート』に連載「子どもと携帯電話」(12回、2009年~2010年)
 『科学』にレビュー論文「携帯電話による電磁界が脳神経活動に与える影響」(2010年4月)
 『babycom EYE子どもと電磁波』『babycom mook 1~4』累計2万部ほど など多数
・電話やメールでの一般市民からの相談への対応
・「電磁波から健康を守る百万人署名連絡会」世話人の一人として署名活動
→9万5041筆を2009年4月に衆参両院議長に提出

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