2011年6月アーカイブ

世界保健機関(WHO)の専門組織「国際がん研究機関」(IARC)は5月31日に、「携帯電話から放射される電磁波の暴露によって、脳腫瘍(その一種である「神経膠腫」(こうしゅ=グリオーマ))と耳の聴神経腫瘍(しゅよう))のリスクを高めることを示す限定的な証拠がある」として、携帯電話電磁波を、「グループ2B(=発がん性の可能性がある)」に分類した。

日本での報道は、次の記事が主だったものである。

携帯電話の電磁波「発がんの可能性も」 WHOが分析
【大岩ゆり(朝日新聞2011年6月2日6時0分)】
WHO、携帯電話の発がん性リスクを警告
【Marguerite Reardon (CNET News)】

また海外のニュース(動画あり)の主だったものは、
Cellphones a 'possible' carcinogen _ like coffee (AP)
WHO: Cell phone use can increase possible cancer risk (CNN)
Cellphone Radiation May Cause Cancer, Advisory Panel Says (New York Times)
Cellphones 'possibly carcinogenic,' WHO says (Washington Post)

これらの記事の中でも言及されているが、IARCによるプレスリリースは次のとおりである。
IARC CLASSIFIES RADIOFREQUENCY ELECTROMAGNETIC FIELDS AS POSSIBLY CARCINOGENIC TO HUMANS

この発表を正確に受け取るためには、IARC自体がどのような組織であり、「2B」という分類が何を意味するのかを知っておく必要がある。参考になるものとしては、
国際がん研究機関
IARC発がん性リスク一覧
があるが、2001年に超低周波磁界を「2B」に分類した(『モノグラフ』第80巻)場合と同じ評価方法が用いられているので、次の解説図解をそのまま携帯電話電磁波にもあてはめることができる。
国際がん研究機関(IARC)による発がん性評価(2001年)


上記プレスリリースでも述べられているように、曝露データ、疫学、動物実験、腫瘍発生機序に関わる研究などの数百の文献を検討した結果、リスクの有無に関する新しい証拠が今も蓄積されつつある案件だが、「2B」に分類するには十分な証拠がある、としている。その検討の詳細な内容(評価の根拠と検討した文献の一覧)は、
・オンラインのThe Lancet Oncology
→The Lancet Oncology, Volume 12, Issue 7, Pages 624 - 626, July 2011 doi:10.1016/S1470-2045(11)70147-4 Published Online: 22 June 2011
「Carcinogenicity of radiofrequency electromagnetic fields」として発表されている。
・この先に刊行される『モノグラフ』
で発表されることになっている。


検討した文献には、当然のことながら、「インターフォン研究」の諸論文が含まれているし(つい最近公表されたその最新の論文にも言及している)、昨年10月に発表された、東京女子医大のグループによる、聴神経腫のリスクの上昇を確認した論文「A Case-Case Study fo Mobile Phone Use and Acoustic Neuroma Risk in Jpan」も入っているはずである。IARCから詳細な報告がLancetに出されたなら、それを的確に読み解くには、こうした原著論文の中身を把握しておくとよいだろう。インターフォン研究については、市民科学研究室ではいくつかの記事や翻訳でその解説と批評を行ってきた。その一連の文書は次のサイトに掲載している。

 ・インターフォン研究の解説と批評など
 ・インターフォン研究の原著論文


また東京女子医大グループの論文については、原文は雑誌をみていただくしかないが(要約のみこのサイトで読める)、筆者が以前にそれを読み解くためのメモを作ったので参考にしていただければと思う。

 ・東京女子医大グループの論文の読み解きメモ → cellphone_epidemi_201011memo.pdf


今回の発表を受けて、総務省や携帯電話事業者はむろんのこと、厚生労働省をはじめとする公衆衛生に関わる諸機関、がんを扱う大学医学部や研究機関などが、携帯電話の使用に対して、適切な規制措置(使用制限や警告表示や子供たちに対する広告の禁止など)を提言し、それを実現するための政策を打ち立てていく必要がある、と私たちは考える。

この点については、IARCの詳細報告を受けて、その解説とあわせて改めて論じたいと思うが、「2B評価」については、いろいろな誤解や偏った解釈もみられるので、それについての解説を先に文書にまとめておいた。参考にしていただだければありがたい。

IARCの「2B評価」の意味について → commentary_IARC2B.pdf

【追記】
Lancet Oncology Vol 12 July 2011 に、IARC詳細報告が掲載されました。
その和訳と、今回の2B評価に対する見解を、日本の「国立がん研究センター」が公表しましたので、それのリンクを示しておきます。
携帯電話と発がんについての国立がん研究センターの見解
Lancet Oncology Vol 12 July 2011 に掲載された論文の和訳
 (上の「見解」と同じファイルの後半部分に掲載)

                                                  (上田昌文)

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